統計物理学懇談会(第 13 回)のおしらせ

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公開:2026年1月20日、最終更新:2026年3月10日

今年もオンラインでの開催です。 ご覧のように今年も多彩で豪華なメンバーに講演していただきます!
登録を締め切りました。登録してくださったみなさんは当日、よろしくお願いします。楽しい会にしましょう!
統計物理学とその周辺の分野について、様々な話を聴き自由に議論することを主眼にした研究会を開きます。 ご興味のある方は、ぜひ積極的にご参加ください。

この研究会は 2013 年から始めて今回が 13 回目です。 これまでの研究会には幸いにして多くの人に参加していただき充実した素晴らしい会になりました。 過去の記録はトップページからご覧ください。

肩の凝らない、しかし、長い目で見て意義のある会にしていきたいと考えています。 どうかよろしくお願いいたします。

世話人:齊藤 圭司(京都大学)、白石 直人(東京大学)、田崎 晴明(学習院大学)

日程

2026 年 3 月 12 日(木)、13 日(金)
(12 日は午後のみ、13 日は午前 + 午後)

参加申し込み

締め切りました。 3/10の昼頃に、登録されたみなさんに ZOOM の接続情報をメールしました。迷惑メールに分類されてい可能性があるのでご確認ください。

プログラム

講演は原則として日本語です。時間配分はだいたい講演 40 分 + 議論 20 分。
休憩時間(および終了後)には直前のセッションの一人目と二人目の講演者に、それぞれブレイクアウトルーム 1 と 2 に移動してもらいます。講演に関連する議論を続けてください。 ブレイクアウトルーム 3 以降はそれ以外の議論に活用してください。次のセッションが始まるときにはメインの会場に戻りましょう!

3月 12 日(木)

 13:00-13:05
   世話人挨拶
 13:05-14:05
  加藤 岳生(東大物性研)
   カイラリティによって誘起されるスピンフォノン変換 / Show abstract
近年、らせん構造をもつ高分子において、磁性がないにもかからわずスピンが偏極する現象が注目されており、カイラリティ誘起スピン選択性 (CISS) と呼ばれている。CISSは物質中のカイラリティの破れによって生じると考えられるが、その微視的メカニズムについてはよくわかっていない状況である。本発表では、CISSに関する理論・実験の状況を紹介した後、電子スピンと剛体回転の間の角運動量変換現象である磁気回転効果を論じ、常伝導金属/カイラル絶縁体接合[1]においるフォノンと電子スピンの変換機構を紹介する。もし時間があれば、一次元高分子模型の計算[2]およびフォノンによる軌道蓄積効果[3]についても触れる。
[1] T. Funato, M. Matsuo, and T. Kato, Phys. Rev. Lett. 132, 236201 (2024).
[2] R. Sano and T. Kato, preprint (arXiv:2404.19000).
[3] T. Sato, T. Kato, A. Manchon, preprint (arXiv:2511.11272).

 14:05-15:05
  松井 千尋(東大数理)
   部分可解性がもたらす非熱平衡化現象 — 孤立量子系から開放量子系まで — / Show abstract
量子多体系において、非可積分であっても熱化しないエネルギー固有状態が存在することが近年明らかになっている。これらは量子多体傷跡(quantum many-body scars; QMBS)と呼ばれ、低エンタングルメントエントロピーや長時間持続する振動といった特徴を示す。興味深いことに、多くの傷跡状態は非可積分ハミルトニアンに属しながらも厳密に可解であり、その背後には特定の部分空間における「部分可解性」が存在する。
本講演では、部分可解性を生み出す二つの機構、すなわち restricted spectrum-generating algebra(rSGA)と Hilbert 空間フラグメンテーション(HSF)に焦点を当て、非熱的部分空間がどのように構成されるかを解説する。さらに、この部分可解構造が境界散逸を受ける開放量子系においても保存され得ることを示し、Gorini–Kossakowski–Sudarshan–Lindblad方程式の厳密固有モードの構成例を紹介する。これにより、持続振動や可積分的挙動が開放系においても実現し得ることを示す。

 (休憩 25 分)
 15:30-16:30
  山崎 隼汰(東大情報理工)
   一般化量子Steinの補題と量子リソース理論の「第二法則」 / Show abstract
The second law of thermodynamics is the cornerstone of physics, characterizing the convertibility between thermodynamic states through a single function, entropy. Given the universal applicability of thermodynamics, a fundamental question in quantum information theory is whether an analogous second law can be formulated to characterize the convertibility of resources for quantum information processing by a single function. In 2008, a promising formulation was proposed, linking resource convertibility to the optimal performance of a variant of the quantum version of hypothesis testing. Central to this formulation was the generalized quantum Stein's lemma, which aimed to characterize this optimal performance by a measure of quantum resources, the regularized relative entropy of resource. If proven valid, the generalized quantum Stein's lemma would lead to the second law for quantum resources, with the regularized relative entropy of resource taking the role of entropy in thermodynamics. However, in 2023, a logical gap was found in the original proof of this lemma, casting doubt on the possibility of such a formulation of the second law. We address this problem by developing alternative techniques to successfully prove the generalized quantum Stein's lemma under a smaller set of assumptions than the original analysis. Based on this technique, we reestablish and extend the second law of quantum resource theories, applicable to both static resources of quantum states and a fundamental class of dynamical resources represented by classical-quantum (CQ) channels. These results resolve the fundamental problem of bridging the analogy between thermodynamics and quantum information theory. The talk is based on the following papers.
Masahito Hayashi, Hayata Yamasaki, “The generalized quantum Stein's lemma and the second law of quantum resource theories,” Nature Physics 21, 1988, October 2025. arXiv:2408.02722
Masahito Hayashi, Hayata Yamasaki, “Generalized Quantum Stein's Lemma for Classical-Quantum Dynamical Resources,” arXiv:2509.07271, September 2025.
  
 16:30-17:30
  今泉 允聡(東大総文 / 理研)
   深層学習の原理理解に向けて:ニューラルネット学習動力学とトランスフォーマーにおける自己組織化

3月 13 日(金)

 9:45-10:45
  吉田 博信(東大理)
   時間依存 Lindblad 方程式における定常状態の分類と対称性
 10:45-11:45
  高江 恭平(鳥取大工)
   ソフトポーラスクリスタルの統計物理学 / Show abstract
多孔性金属錯体あるいは金属有機構造体(Metal-Organic Frameworks: MOF)は、金属原子に有機分子が配位したユニットが高分子化して形成される多孔性材料であり、典型的には結晶性を示す。その内部にはナノスケールの空孔があり、ゲスト分子の吸着・脱着が可能である。このとき、MOFとゲスト分子との相互作用に応じて、ヒステリシスや分子選択性を示すことが知られている。とくに、吸脱着に伴い大変形を示す物質群は、ソフトポーラスクリスタル(soft porous crystals)と総称され[1]、分子移動と弾性変形の結合により様々な機能が発現する。しかし、物質構造の複雑さのためか、統計物理学の見地からの研究は驚くほどに少ない。本講演ではこのような系に対する格子モデル研究として我々が取り組んできた、分子吸脱着と格子の変形とが結合した相転移・ダイナミクスについて紹介したい。
[1] S. Horike, S. Shimomura, and S. Kitagawa, Nat. Chem. 1, 695 (2009).

 (昼食など 1 時間 15 分)
 13:00-14:00
  山岸 純平(理研)
   細胞内代謝のミクロ経済学
 14:00-15:00
  村山 斉(UC Berkeley / カブリIPMU)
   2次元ヤンミルズの厳密解での分数インスタントンとStiefel-Whitney類 / Show abstract
2次元ヤンミルズ理論の厳密解は以前から知られている。モデュラー変換を行うことで経路積分での分数インスタントンを取り出し、そのウェイトにStiefel-Whitney類に加えて符号があることを示す。対応する真空は無限遠にカラーチャージを置いたことに対応し、閉じ込めの起きる表現と起きない表現を分類する。新しいトポロジカルな相かもしれない。

 (休憩 30 分)
 15:30-16:30
  田之上 智宏(阪大理)
   乱流におけるスケール間の階層的情報伝搬 / Show abstract
流体乱流はさまざまな時空間スケールの渦から構成される乱れた流れであり、かけ離れたスケール間のゆらぎが互いに干渉し合うという特異な性質を示す。近年、従来の乱流研究では無視されてきた熱ゆらぎが、マクロスケールでの統計則や予測限界に本質的な影響を及ぼしうることが指摘されている[1]。本講演では、このような乱流特有のスケール間干渉の性質を解明する試みとして、ゆらぐ流体力学と情報熱力学の観点から行った研究を報告する。まず、3次元のゆらぐ流体乱流において、マクロからミクロへの階層的な情報伝搬が生じることを議論する[2]。次に、2次元のゆらぐ流体乱流においては、3次元の場合とは対照的に、ミクロからマクロへの逆方向の情報伝搬が生じる可能性があることを示す。さらに、格子ボルツマン法を用いた数値シミュレーションにより、熱ゆらぎが2次元乱流の統計則に及ぼす影響を調べた最新の結果についても紹介したい。
[1] G. L. Eyink & N. Goldenfeld, arXiv:2512.24469.
[2] T. Tanogami & R. Araki, Phys. Rev. Res. 6, 013090 (2024).

 16:30-17:30
  中野 裕義(東大物性研)
   2次元流体力学の基礎再考 / Show abstract
しばしば、非平衡統計力学の文脈で「2次元流体は存在しない」と言われることがある。しかし、例えば分子動力学(MD)シミュレーションで粒子を2次元空間に配置し運動させれば、そこには確かに「流体」のような振る舞いが観測されるだろう。 にもかかわらず「存在しない」とされる真意は、ミクロからマクロへの接続の破綻にある。本来、流体力学とは、バラバラに運動する原子・分子を「粗視化」し、そのマクロな振る舞いを記述する体系である。通常、十分大きなスケールに注目すると、分子レベルの微細な運動は平均化されて消え、定数の粘性率を持つNavier-Stokes方程式が得られる。しかし2次元系では、どれほどスケールを大きくしても分子運動の相関が残留してしまい、従来の粗視化の手続きではマクロな方程式を定義できないことが知られている[1]。
では、我々がシミュレーションで目にする「あの2次元の流れ」を定量的に記述する正解は何なのか? その有力な候補として、50年以上前から、熱揺らぎを明示的に取り入れた「揺らぐ流体力学」が提案されている。しかし、壁に挟まれたCouette流やPoiseuille流といった、流体力学の教科書の最初に登場するような極めて基礎的な流れですら、この枠組みを用いた解析はこれまで報告されてこなかった。 本発表では、これらの基礎的な流れを高精度なMDシミュレーションと揺らぐ流体力学の解析によって徹底的に調べた我々の最近の研究結果[2]に基づき、2次元流体の実像について議論する。壁と揺らぎが織りなす相互作用により、3次元流体とは決定的に異なる速度プロファイルや相関構造が現れることを示したい。また、時間の許す限り、近年発展しつつある純粋な2次元流体を実現する実験的試みについても触れる。
[1] D. Forster, D. R. Nelson, and M. J. Stephen, Physical Review. A 16, 732 (1977).
[2] H. Nakano, Y. Minami, and K. Saito, arXiv:2502.15241 (2025)


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